「NIMBY」を避けろ 沖縄の基地負担、本土で聞く
「政府としては引き続き基地負担軽減に全力で取り組んでいきたい。全力で埋め立てを進めていきたい。(沖縄の民意無視との批判は)全く当たらない」(菅義偉官房長官 昨年12月14日の定例会見で)
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設に向け安倍政権は昨年12月14日、名護市辺野古の海に土砂投入を強行した。昨年の知事選で移設反対を訴えた玉城デニー氏が圧勝し、沖縄では「民主主義を守れ」と反発が広がる。だが安倍政権もまた民主的な選挙で選ばれた。基地負担が沖縄に押しつけられる問題は、どうすれば解決できるのか。
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辺野古の工事を中止し、普天間の代替施設が必要な場合、沖縄以外の全国すべての自治体を等しく候補地とすること――。そんな意見書が昨年12月、東京都小金井市議会で可決された。
旗振り役は沖縄出身で同市在住の会社員米須清真(こめすきよさね)さん(30)。「世論調査では国民の8割が日米安保容認。ならば移設候補地も国民全体で議論すべきだ」と昨年8月、意見書の元となる陳情を市議会に出し、全会派を回って説明した。
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政権の強硬姿勢を支えているのはヤマトンチュー(本土の人々)ではないか。沖縄の基地問題に無関心な多くの日本国民は、基地負担を引き取ろうする動きが身近で起きたら、どう向き合うのだろうか。
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市民グループの勉強会にも出た。参加者から「九州では沖縄から移転した米軍訓練が負担となっている。これ以上の負担は受け入れられない」と言われたこともある。だが「自分の所に基地が来るかも、と当事者意識を持ってもらえた」と前向きに受け止めた。
陳情は翌月採択されたが、意見書の文言調整は難航した。陳情に賛成した共産党会派が「国内に米軍基地を造ることを容認しているとの誤解を与える」と翻意。最終的に「国内移設を容認するものではない」との文言を加え、12月に賛成多数で可決された。
基地負担について本土で意思表示する難しさに直面したが、米須さんは「意見書採択がほかの地方へも広がるといい。自分の街には米軍基地は要らないと考えるなら、日米安保体制が必要かどうかも考えてほしい」と期待する。
沖縄の基地負担を本土でも引き受けようとする運動の先駆けは大阪だ。2015年、大阪府高槻市の福祉施設職員松本亜季さん(36)らが市民団体「引き取る行動・大阪」をつくった。「本土の人の『基地はどこにも要らない』という主張が、沖縄の基地の固定化につながってきたのではないか」。松本さんはそう問いかける。
大阪湾を埋め立てた人工島の夢洲、空港のある八尾市……。仲間と具体的な地名を挙げて議論し、「候補地」のほか、大阪のキタやミナミの街頭で「本土に基地を引き取ろう」と訴えた。
だが、今は候補地を示していない。一昨年、「具体的な候補地を挙げると、NIMBY(Not In My Back Yard=我が家の裏にはご免だ)という拒否反応が起き、逆効果だ」と沖縄の市民団体のメンバーに助言されたためだ。具体論に踏み込まず、「まずは議論に参加してもらうのが大事」と地方議会への請願に力を入れる。
福岡市で同様の運動をしている大学非常勤講師の里村和歌子さん(43)は「本土への引き取りを進めるためには地位協定の改定がカギになる」と指摘する。
「民主主義国家ですらない」識者指摘
昨年、陸上自衛隊日出生台演習場がある大分県で地元の人と意見交換した。演習場は1999年、沖縄の米海兵隊の実弾射撃訓練を引き受けた。多くの人は自衛隊の訓練には理解を示していたのに、米軍には反発していた。地元に滞在する米兵がトラブルを起こしたときに日本の法律が適用されないのではないか――、住民らにはそんな懸念があった。
「いまは問題をコントロールできていない。根底には地位協定の問題がある。対等な立場で米軍と向き合えるようになれば、基地への抵抗感は減るのではないか」と里村さんは話す。
山口県岩国市の米軍岩国基地には14年に普天間飛行場の空中給油機15機が移駐した。1996年に日米両政府が普天間全面返還で合意して以降、普天間所属部隊の本土移転は初めてだった。
受け入れを決めたのは、91~99年に市長を務めた故・貴舩悦光(きふねよしみつ)氏。当初は移転に反対だったが、96年に橋本龍太郎首相と首相官邸で会うと一転、97年1月に受け入れを表明した。
「要は総理に『カネを出すから頼む』と肩をたたかれたっちゅうわけだ」。市議会与党会派で貴舩氏を支えた桑原敏幸市議(70)は振り返る。
市への「見返り」は新市庁舎建設費の補助金約50億円。新庁舎はガラス張り7階建てで08年3月に完成した。
完成前に、在日米軍再編に伴う空母艦載機部隊移駐が浮上。当時の市長が反対すると、政府は補助金の支出を一時凍結し、市政は混乱した。国の政策に従えばカネを出し、反対すれば凍結、という典型的な「アメとムチ」だった。08年2月の出直し市長選では移駐容認派が当選した。
桑原氏は「基地を抱える以上、国から支援を受けるのは当然。一番大切なことは普天間を一日も早く閉鎖させることじゃなかろうか」と語る。全国の市議会議長らに普天間の基地機能の分散も呼びかけている。
沖縄では民意を問う県民投票が2月に行われる。政権は「辺野古移設しかない」と強硬姿勢を続ける。沖縄の住民も本土の住民も同様に負担が嫌だとすると、単純な多数決なら「基地は沖縄に」となる。基地負担を、お金によってではなく住民の納得で分かち合うことは不可能なのか。政治学者の宇野重規・東大教授(政治思想史・政治哲学)は「解は私にもない」とした上で続けた。「少数者の意見を反映させる民主主義を鍛えるしかない。安倍政権は納得を得るための説明責任を十分果たしていない。少数派の意見に真摯に耳を傾け、納得を得るための説得を経なければ、今のままでは『民主主義国家ですらない』との指摘を日本人は甘受しなければならなくなる」
記者の見方
沖縄タイムスから交流で朝日新聞に来て1年9カ月になる。
「もはや死人が出るぐらいでないと沖縄県外の人間の関心を引かない」。辺野古移設の警備に関わった政府関係者が、そんな言葉を口にしたことがある。聞いてぼうぜんとした。いま担当している首相官邸の中からは、辺野古移設を思いとどまるような声はいっさい聞こえない。
政権が強硬姿勢なのは、多くのヤマトンチュー(本土の人々)が沖縄の基地問題に無関心だからかもしれない。基地負担を引き取ろうとする動きが身近で起きたら、皆さんはどう向き合いますか。(又吉俊充)
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